2004年08月19日

「魔性の子」

小野 不由美 著
新潮文庫 (本屋さん)Amazon

「十二国記」番外編だが、独立した作品になっている。
「黄昏の岸 暁の天」の裏側で進行しているお話で、戴国の争乱のさなか行方不明になった泰麒はこちら側の世界に戻っていて、高里 要として普通に過ごし高校生になっていた。けれど彼のまわりには妖異が絶えない。彼にちょっかいを出すと祟られる、周りの人間はそうして彼を恐れ、彼は孤立していた。
そこへ教育実習生として広瀬がやってくる。広瀬は同じような故国喪失者として高里に共感を持った。やがて広瀬の目の前で高里に関わる人が次々と妖異に遭い……というストーリー。

ジャンルはホラーなんだけど、「十二国記」の一つのお話として読んでいるので、あまり怖さはない。といっても、その「祟り」の様子が最初は小さな怪我で始まり、ひとり死に、数人が死に、何人もが……というふうに次第にエスカレートしていく様がとても不気味だ。合間にこちら側に泰麒の探索にやってくる麒麟や使令たちが描かれるが、これは「十二国記」を読んでないとなんのことかわからないだろうなー。
高里に共感する広瀬がなんとも哀れだ。異端者として同族意識を持ってしまった広瀬が、実は自分と高里は全く違うものだと知った時の喪失感。高里はこちら側にいても、どんなに自らの使令が犠牲を増やし血で穢れていたとしても、彼自身は浄い麒麟のままなのだ。それに比べて自分は汚い醜い人間でしかない。それを目の前で見せられてしまっては、ほんのわずかな夢や憧れさえ微塵に砕かれてしまうだろう。

「ここではないどこかに自分を受け入れてくれる場所がある」という幻想を抱く若者に、それは幻想でしかないときっぱり言ってくれる。この作品はそういった裏のテーマがとても面白く、「十二国記」で描かれた人間の機微がここでもきちんと描かれていて、特色あるファンタジー・ホラーになっていると思う。
posted by きんと at 15:00| Comment(2) | TrackBack(1) | 本・雑誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。どんぐりと申します。
「魔性の子」の記事、トラバさせていただきました。
ファンタジー小説の外伝であるにもかかわらず、「人には帰るべき世界などありはしない」というメッセージを持つのが「魔性の子」の興味深いところですね。
穢れを知らない麒麟である高里と、所詮は人でしかない広瀬との対比がストーリーに深みを出していたと思います。

広瀬にはおもいきり感情移入してしまいました。
ラストの彼の叫びが切ないです。
Posted by どんぐり at 2004年11月21日 14:05
>どんぐりさん
コメントありがとうございます。
私は「自分の居場所はここではない」と思う時期はとっくに過ぎ、どちらかというと後藤先生の立場に近い方なので、広瀬に対しては哀れだとしか思わなかったのですが、泰麒に会ったことで変われるチャンスを得た(それがとても苦しいことであっても)と考えると、つらいながらも希望の持てるお話ですよね。少なくとも、そう思える余地を残して終わっていますね。

どんぐりさんのサイト、見させていただきました。共通する話題が多くて楽しかったです。今度こちらからもトラバさせてもらいますね〜(まだトラックバックってしたことがないんですよ)。
Posted by きんと at 2004年11月21日 17:42
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「魔性の子」 その2
Excerpt: その2では登場人物の高里と広瀬に焦点を絞って考察してみようと思います。以下は十二国記シリーズを含むネタバレです。未読の方はご注意ください。******************************●...
Weblog: 海の地図
Tracked: 2004-11-21 14:03